奈須きのこ 空の境界(上・下巻)

あらすじというか内容説明

この本は連作短編という形で纏められていて、更に時系列が前後するという内容なので、どこまであらすじ書いたもんかとか思ったわけで変則的な基本キャラの基礎設定からのあらすじで紹介。

両儀式という少女は生まれながらに二つの人格を持った人物だった。これは血の宿命といえるもので、代々受け継がれてきた一つの特性である。式という女性の人格と識という男性の人格が相克するように一つの肉体に入っている。彼女はこの特性を持っていたがために自らの兄を蹴落とす形で次期当主の枠を占める事となる。かならずこの特性が子に出るというわけではなく、彼女の父や兄は発現しなかった為に彼女の父は喜んだという。ただ、この特性は一つの肉体の中に常に対立構造を生むため精神を病みやすいという難点がある。なお、彼女は彼女なりのポリシーでほぼ和装である。ただ機能的に無理な場合は譲歩する。
黒桐幹也は式と同級生で中学の時に一度彼女を出会ったときから彼女に恋している。ただ、彼女はその時の事は全く憶えていない。高校で同級生となってからひたすら"人嫌いオーラ"を発する式に頓着する事なくつるんでいる。

この二人が近づけば近づくほど式の破壊衝動が膨らんでいく。関係を維持したい式と破壊したい識。丁度その頃猟奇殺人事件が頻発する。式は猟奇殺人が行われているのにもかかわらず、頓着せずに趣味の夜散歩を続ける。・・・そしてその果てに色々あって*1彼女は交通事故に遭う。幸い外傷は軽かったが、意識が戻らない状態が続いた。
二年後彼女は唐突に覚醒すると共に自分の視覚に異変を感じる。それは"モノを殺す線"を観る力、直死の魔眼が何の因果か備わったという事だった。更に違和感は続く。もう一人の人格の識が居ない。また自身の記憶も遊離したような感覚で自分自身に起きた事とは認識しづらかった。
覚醒してすぐこんな力はいらないと彼女は自身の眼球を圧迫、潰そうとするが止められ、自暴自棄になっていた彼女の元に一人の女性がやってくる。意識回復後ほとんど喋らない式を失語症と診断した医者が呼んだ言語療法士蒼崎橙子だった。だが彼女が言語療法士という仮初のパラグラフで、本来は魔術師という存在だった。彼女は式に言う。
その目の使い方を教えよう。ただし、私の仕事を手伝って受けてもらおう。
と。
更に目を抉ろうが、潰そうが、その死線はいずれにしろ見えるものだという事も彼女は言った。かくして式は選択し橙子の仕事の手伝いをするのだった。
なんの因果かその職場には黒桐幹也が就職していたのは式もビックリだった。

かくて見切り発車的に始まった物語は流転する。

感想

期待してただけにショック。無駄な記号の取り扱いが多いの何のって。オカルティズムはやはりオカルト足り得ない事には始まらないというのが脳裏をよぎるわ。秘匿されてこそ空想する喜びありですよ。
無駄な記号の羅列と化した説明文は京極節的な意外性は皆無で、ひたすら苦痛。というか、そこら辺のニュアンスを想像したりするのが楽しいんじゃないか。それに無駄な説明が多すぎ。当たり前の事を当たり前に記述しすぎるから無味乾燥な印象がかなりきつめに響く。更にストーリーのカタルシスが最終の数十ページに集約されてるんだろうけど、全体通してみると非常に筋に起伏が無い。なので滅茶苦茶単調なんですよ。まぁ、単調じゃないところも散見できるけど、シナリオじゃなくて日本語の用法だったりするんだよねぇ、目を引くのは。上巻はフリ。下巻でオチ。
にしてもキャラクターの感情表現の無さはなんなんでしょうな。人間ってかなり単純な事に一喜一憂するようなもんだけど、黒桐は常に薄笑い*2、式は常に厳しい顔っていうイメージが一向に払拭出来ないですよ。あと、蒼崎橙子ですが、ちょっとドライすぎないかなと。冷酷さがうりのキャラなんでしょうかねぇ。自分は身内にはやさしいって言ってるものの、言動と行動が不一致だったり、キャラの設定を生かせてないと思う。これは橙子だけじゃなくて、他のキャラにも言える。折角いいネタ使ってるのに腐らせるとは勿体無い。
他にもスプラッターの脈絡がちっと強すぎですな。ホラーの定義を本の中で紹介しているにもかかわらず、リアルさ一辺倒なのか戦闘ごとに肉体の欠損が起こる一方なんか煮え切らないし、C級ホラー見てる感じが拭えない。作者はシリアルキラーマニアなだけか?死体と殺害過程と殺害方法に執着を感じるが・・・。
何よりも問題は小説内に感情移入しやすいキャラクターが居ない事ですか。式はどうやったって無理だし、幹也は何にも出来ないのでイライラするだけだしね。

ま、本編叩くのはこれくらいにして、問題は巻末にある解説ですよ。笠井潔の評論は土台が間違ってる。「俺はこれだけ長く生きてこれだけの事を知ってるんだぞ」という自慢を土台に「この本は凄いぞ、買わないと損だ」と煽っている。正直無駄にページ数食いすぎ。80年代の伝奇小説の零落なんてこの本買うような読者は絶対に知る必要は無いだろうに。読者は一般にラノベ読みですよ?読者との隔たり感が強い伝奇小説略歴を上巻の巻末丸々24ページも使って普通は書くか?下巻では唐突に萌え要素みたいな事に触れてるけど、滅茶苦茶ステレオタイプな事しか書いてないし、解説というより説明の説明*3とどこそこという本にはこういう一節があって、と引用してるだけだし、ひたすら上っ面なだけ。お前だから何が言いたいの?と突っ込むと多分
「いや、だから、この本は伝奇小説の転換点として記念碑的な(ry」
みたいな事をいいそう。
あとなポストモダンポストモダンうるさいんだよ!次世代とか書いてれば十分なのに。ポストモダンなんてイデオロギー闘争の専門用語じゃないか。永遠に来ない未来を指すような言葉は死語だという事に気付くべきだな。
上下巻両方ともに共通してるのは民俗学に足突っ込みすぎって事もあるな。民俗学はけっしてオカルトじゃないぞ。オカルト仕立てにはいくらでも出来るがな*4
歴史と引用と独り善がりで少ししかない考察で解説とは臍で茶が沸く。
バーターでTYPE-MOON武内崇の表紙イラストを使い、昔々に出した本でリバイバルとはねぇ。角川が講談社に権利売ったんだろうけど、どうよ。なんかこいつの本とは一生縁がなさそう。

ま、この本は40点ってところかなぁ。ブギーポップみたいなのを期待してたけど、期待はずれ甚だしいのでかなり残念。まぁ、ブギーポップも一作目は文章が終わってたけど二作目で大飛躍したのでそういうのに対しての期待は一応しておきます。

参考リンク

空の境界 上
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奈須 きのこ
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空の境界 下
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*1:ここは流石に書くわけにはいかんですよ・・・

*2:まるで3×3EYESの八雲が糸目であった如く

*3:既に本編で語られている事を再び繰り返してるだけ

*4:例えば民俗学ゴロの大塚英志とかが代表