ヴォンダ・N・マッキンタイア 太陽の王と月の妖獣

この作家は「夢の蛇」と「星の海のミッキー」を書いているが、両方絶版らしく未読。他にもスタートレックのノベライズや映画のノベライズ化などやっているらしい。スタートレックに関しては4冊でていたが、やはり絶版っぽい。古本屋で地道に探すしかないですな。早川は文庫本をすぐに絶版にしちゃうのはやっぱり問題だよなぁ・・・。

あらすじ

主人公マリー=ジョセフ・ドラクロワヴェルサイユ宮殿の侍女をしている。あるとき兄で自然哲学者のイヴ・ドラクロワは王の命を受け僻地へ趣き不死の得られるという妖獣を探し出すように命じられる。無事捕獲を達成して戻ってきたが、妖獣は誰にも心を開かずほとんど食事をしないため、どんどん弱っていく。この時代の女性としては稀な事だがマリーは科学的考察に興味を覚える性質だった。故にこの今までみた事のない生物である妖獣とのコミュニケーションを取ろうとする。
そう、妖獣には明確な知性が宿っていたのだ。コミュニケーションを取るうちにしっかとした実感としてこの生物を殺す事は無意味だと悟る。妖獣を食べたとて不死など得られぬであろう、と。しかし、妖獣はルイ14世の即位50周年の宴で料理される事は決定している。
マリーは自らの命をかけて妖獣を救うために動き出す。

感想

どうやら17世紀末の辺りの状況を描いた、歴史改変小説らしいんですが、ハッキリ言ってフランスの王家の事などサパーリなわけですよ。なのでどこがどう改変されているかという事については殆ど考察できずですわ。訳者のあとがきによると殆ど歴史改変といえるところはないらしいということです。
ちなみにこの本の分類はSFらしいんですが、歴史改変物ってSFになるんですかねぇ?ちょっとそれは疑問。ただ、この本の優れているところは多分フランス人以外にしか分からない点だと思う。これは所謂文化とその文化の背景ですな。その点については無知であればあるほど衝撃を受けると思いますわ。平安の時代の日本の文化についての小説でもあれば、海外の人が受ける衝撃と同じ感じなのかな。
例えば、当時は医療行為として普通に行われていた瀉血*1。日本人はこんな風習知らないからなんだろうと首をかしげるに決まってますな。あと王権制度の厳格さも大変ですな。まぁ、徳川幕府の将軍の煩雑さにも似てますが、ここまで描写されると引きます。まぁ、知識の吸収源としては中々優秀ではありますが。
また、所謂社交界の影の部分の描写も目を引きます。革命前のフランスのフィクションだと有名どころではベルサイユのバラがあるわけですが、あれよりもずっときっちりしてるので、中世の王家というものに幻想はなくなりそうな勢いです。
あと作者が女性な事でフェミニズム的な考えが作中に漂いまくってます。フェミニズムっていうのが言葉の通り女性同権ならわかるんだけど、世のフェミニストと変わらず、女性上位が思想の根底にあるようなので、単なる女性の男性化としか見えないわけですよ。そこら辺は残念ですな。
総じて文化を学べる本という位置付けあたりが正しいかと。話の筋は本筋である妖獣とのやり取りよりも王宮内での人間関係やら階級社会の弊害やら政治の問題やらの方が比重が高いためそう受け取るよりない感じ。
価値は認めるが感情移入がしにくい小説であるのはたしか。ちなみに訳者の幹遥子の訳は悪くないので、文章としての完成度はそこまで低くはない。
小説として考えると40点ぐらいかな。人によるとは思うけど自分だとこれぐらい。まぁ、訳がいいので苦痛にならないのが救い。
最後に。ベルバラ読むぐらいならこっち読んだ方がまし。

参考リンク

太陽の王と月の妖獣〈上〉
ヴォンダ・N. マッキンタイア Vonda N. McIntyre 幹 遙子
早川書房 (2000/01) ISBN:4150112983
売り上げランキング: 204,360
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太陽の王と月の妖獣〈下〉
ヴォンダ・N. マッキンタイア Vonda N. McIntyre 幹 遙子
早川書房 (2000/01) ISBN:4150112991
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通常2〜3日以内に発送

*1:ダウナーな気分の時に体の一部を傷つけて血を流させるという行為。ハッキリ言って治療も糞も無い。そりゃ貧血になりますわ。これは割と古くからそこら中でやってた模様。散髪屋のポールが赤と青の螺旋ですが、昔は医者の印で血管を表してるけど、瀉血をやってたからそのポールの変わりに皿に血を受けた物を置いていたという事も有ったらしい