フィリップ・K・ディック 火星のタイムスリップ

あらすじ

自閉症児は脳の機能の生体時間がちょっと遅れているというのがこの話の中でのガジェットの一つだ。主人公のマンフレッド・スタイナーからすると外世界はとてつもない速さで物事が変わっていくように見聞し感じる事となっている。しかし、実際は過去未来現在が混沌とした中をたゆたっているのが正解だったりする。
この話の中の中核的存在ではあるが、自身ではほぼ何もやらない。
アーニイ・コットは水利労組組合長で様々な権限がある。マンフレッドの父親のノーバート・スタイナーに地球産密輸食品を頼っていたが彼の死をきっかけに様々に動き出す。地球から大規模土地投機や密輸食品の取り扱い、更には時間をさかしまにして過去に戻ろうとする。
ジャック・ボーレンは元分裂病持ちの機械修理工だが、ひょんなことからコットを手伝わなきゃならなくなり、気付くと勤めていた会社から雇用権を売られてしまって身動きが取れない事になった。コットの要求にこたえるためにマンフレッドと意思疎通を図ろうとする。

感想

あらすじがあらすじじゃなく人物紹介みたいになっちゃったのは理由がある。大筋はコットがタイムスリップをし、マンフレッドは火星の原住民ブリークマンとすごす事で自分の哀れな晩年をよりよいものとする事が出来た。って感じだが、6人の意思がこんがらがり、所々もつれ、不必要なところで結びついてしまっているために、なかなか的確に書き表す事が難しいんだな、これが。みんな別の方向を見ていて、他の人間の事は考えないし・・・。
舞台は(当時の)未来1994年の火星、オーストラリアとかのお隣は10km先クラスな荒涼とした土地だ。「トータルリコール」は酸素が重要だったが、この世界では水が貴重品として描かれている。この土地に来ている人たちは地球で何かを失ったり、絶望したりと後ろ向きな人が多い。更に人々は生活に疲れ、未来に絶望し、人との関係を否定する。結末はそれとは真逆なものだが、まるでディックの心象風景の様な世界である。暗闇に光差すまで物語りは続く。ガブル・ガブラー・ガビッシュと呪文のように唱えられた言葉がわかりかけた頃、物語は終焉を迎える。何度か読まんといかんような作品ではあるわな。ただ、ちいとばっかしディックの本でのカタルシスとしては、主人公格であるべきのジャックが殆ど分裂病の事だけで悩んでいて、いつものディック節だと、とことんいじめられるはずが、ほとんど放置なのでかなり拍子抜けというのはある。
あと、ディック作品の中では珍しく大団円ではある。ただ、これを推す人には悪いが、点数的には65点程度かな。
ディックに免疫ない人だとノーバートが死ぬあたりでほうり投げるかもしれないしねぇ。可もなし不可もなしってところか
(寝不足でかなり変な文だったりします・・・

参考リンク

火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396)

火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396)