馳星周 不夜城

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あらすじ

故買屋を営む高橋健一は劉健一でもあった。母は日本人だが、父は台湾人で半々(ばんばん)と呼ばれるどちらにも居場所がない人間だった。母は早くに親父を無くし、女という生き物のどうしようもない有様を健一に見せつけた。どちらにせよ、父が金を稼いで送金してきた物がたつきの全てであったので、母は忌み嫌っていた台湾人社会に足を踏み込むしかなかった。その先で頼ることになったのは、新宿は歌舞伎町の台湾人を総括していると言っていい大立て者の楊偉民だった。義祖父として楊と暮らすこととなったが、生活が安定し出すと母はすぐに男を作って失踪した。結局残った健一は楊と暮らすこととなるが、北京語は教えてもらえても、台湾語を教えてもらえないボーダーアウトした存在として扱われ、常に半端もの扱いだった。別に何を思うでもなかったが、大学進学を考え始めた頃に、在日台湾人社会の若いギャングの頭にねらわれる事件があり、返り討ちにしたことによって、台湾人社会から見放される。後ろ盾だった楊が切って捨てたのだ。以来、糊口をしのぐように頭を使って生きることを覚える。
そんな健一に不審な電話が入る。女が携帯に直に電話をしてきたのだ。盗聴されるおそれもあるので、仕事には携帯を使うことを極力避けていたし、元々番号を知っている人間も限られている。一応約束の場所と時間を決めたが、今回はスルーすることにした。いやな予感がしたのだ。
だが、いやな予感は別のところで当てはまった。かつての相棒呉富春が新宿に戻ってきているという。情報仕入れがてら、楊の爺に聞いたのだ。呉という男は上海マフィアの元成貴の右腕だった男をたった数十万で消した気違いだった。戻れば元々組んでいた間柄、いやでも元に疑われるだろう。
案の定元から脅しが入る。誰も信じない、臆病者がこの先どのように立ち回って自分の命を買い受けるのだろうか?

感想

自分で書いててあれですが、あらすじがずいぶん散漫ですなぁ。云いたいことの10分の1も云えてないかも。全部書いちゃっても無粋だし、しゃーないか。
さて馳星周です。第一作なのに読んでなかったのは問題ですが、映画見てたしいいかなと思ったわけです。でも、読んでみればわかるけど、別物ですな。続編が二つ出ているので、そちらもお忘れ無きよう。鎮魂歌−不夜城不夜城長恨歌です。
感想としては第一作目としては非常によくできているって所でしょうか。今までほかに書いてきた奴をほとんど読んでるわけですが、もしかしたら一番出来が良いかもしれない。懊悩と決断と憐憫と憎悪のコントラストが実に鮮やかです。この作品でノワールと云われるようになったわけですな。ただ、個人的な感想としてはこの本は今まで馳星周が書いてきた本に比べてノワールと言うより、ピカレスクっぽさを感じます。ノワールの場合主人公は死ななきゃだめって思いこみがあるからなのかもしれませんな。でも、ノワールの単調さが本書の中にはないので、悪人小説としての方を推したいわけです。落ちるところまで落ちる、それが不幸を体現する健一という主人公で、本来ノワールとして考えるならば、生い立ちと理由と結末がきちんとあるので、非常にマッチするはずなんですが、どうしてもピカレスクとしたい。この背景にはノワールとして馳星周が書いてきた他の本があまりにステレオタイプで、焼き直しの焼き直しというどうしようもない文筆業での壁にぶち当たっているっぽいからです。その壁にぶち当たっている間にかかれた本は軒並みチープな内容に終始して、先が読めない面白さはどこかへ飛んで行っているように感じられて、実に哀愁を誘いますが、本作を見てわかったんですよ。一発屋だと。おそらくこのシリーズでしか名は残せないでしょう。大藪並の個性が無いですから。幅も広いとは思えませんしね。長い目で見たらどう化けるかはわかりませんが、どこまでいくか・・・未知数と付けたいところですが、買いかぶりになるでしょうね。本書に限れば非常によくできている本だと思います。ストーリーの進行はミステリ的でもありますし。
ああそうそう、どうやらこの本と対になる本があるようです。同著の『マンゴーレイン』が多分そうだと思います。不夜城と表と裏の関係に結末がなっています。気になられた方はご一読を。ただ、舞台が似すぎていて拒否反応起こす人もいるでしょうがね。
本書の内容にはそこそこ感銘は受けたものの、感情を揺り動かすという所まではこなかったわけですよ。ストーリーテリングと仕掛けはうまいんですけどね。こう考えると『青い炎』は偉大ですな。読中行き場のない不安感はどこにもなかったのでつるりと特に何の感慨もなく読みました。これは多分馳星周に対して不感症になりつつあるって事と、映画で概略を覚えていたことが作用してるんでしょうな。映画は別物ですが、結末は同じですしねぇ。それに鎮魂歌−不夜城も読んでますし、どうなるかはあらかじめ知っていたと言うことですからねぇ。そりゃあ興奮も何もあったもんじゃないですな。一つ言えるのは映画も、ほかの本も何も読まないうちに読んでおくべきだったと言うことでしょうかね。早めに読まれることを勧めます。マフィアとかヤクザとかそういう暴力系の話が苦手な人はやめておいた方が吉ですがね。70点。

追記:第18回吉川英治文学新人賞と第15回日本冒険小説協会大賞日本軍大賞を受賞してたんですな。

参考リンク

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