奥田英朗 マドンナ

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あらすじ

  • マドンナ

営業三課長の荻野春彦の元に新たにやってきた部下倉田知美は春彦の好みにぴったりだった。以来ほのかな恋心を持つのだが、同じく部下の山口も同じだったらしく、年甲斐もなく張り合うことになる。

  • ダンス

営業四課長の田中芳雄は息子の希望進路がダンサーだと知って狼狽する。同時に営業五課を担当する同期の浅野が飯島部長に目をつけられていて降格させられそうな状態だ。同期が部下に編入されると言うことは職場の雰囲気も悪くなるし、どうにも避けたい。公私両方で問題を抱えた芳雄は躍起に走り回る。

  • 総務は女房

大手電機メーカーの営業畑ばかりを回ってきた恩蔵博史は事務系部署の総務部第四課長を拝命することになった。この会社では営業で認められた人間の出世コースとして別の部署へ一時的に出向させることになっている。つまり、博史はこの先安泰だと言うことだ。だが、実際に四課長に納まってみてわかったのは、裏金作りの温床になっていると言うことだった。勿論四課だけの話ではなく、総務部の全課がやっていることらしい。四課担当の購買を外注している会社の社長からは付け届けで金十万円が届けられてくるし、そのテンポに関してはテナント料も満足に取っていない。しかも契約書すらないという。営業で走り回り、実際に金を作っているのは営業とこつこつと研究をしている研究の人間、そして実際に作っている製造の連中をさしおいて事務屋が裏金で遊びほうけているという現実に博史はどうにも我慢が限界に達していた。ここには改革が必要だ!

  • ボス

浜名洋子というのが新任の部長だった。田島茂徳と同い年の四十四歳で中途採用者である。元々部長職が空いてめぼしい者が居なかったため、そこに納まると云うように周囲から思われていたので茂徳自身がっかりしたものだった。結局鉄鋼製品部第一課課長兼部次長の肩書きで出世はしたのだが、すんなりといったわけではない。洋子は欧米風の会社スタイルを副社長の肝煎りで持ち込もうとしていて、このケースがモデルケースになるようだ。バンカラ気質の鉄鋼製品部はどんどん瓦解していき、禁煙、水曜残業の禁止、飲み会はなしで昼食会へ、サンダルの禁止、酒呑み接待は受けない、こちらからの接待は夫婦同伴でオペラとひたすら格調高くなっていく。伝統を上から押しつぶしていく洋子とそれを下からの突き上げとして守ろうとする声を聞く茂徳ではうまくいくはずもなかったが、副社長の肝煎りである。逆らうことは自身の首を絞めることにしかならない。悩みと怒りが茂徳に渦巻いていく。

  • パティオ

鈴木信久は土地開発会社に勤務しているが、「港パーク」という場所の開発がうまくいかなかったことで、そちらの開発促進の為の営業に回されることになった。当然勤務地は「港パーク」だ。信久のオフィスは七階にあり、下を見下ろすとそこではパティオを一望できた。このあたりは人通りが閑散として、テナントは入っているものの飲食店以外はぼろぼろな有様だった。また飲食店にしても昼の飯時は凄く混むのであるが、それ以外はガランとして営業していてもほとんど意味がない状態だった。つまりパティオは静かに過ごすには絶好の場所だったのだ。
そのパティオの藤棚のあたりにいつも来ている老人が居た。老人はサングラスにさっぱりとした清潔感を感じる白系統の服を持ち前の長身で着こなし、のんびりといつも文庫本を読んでいた。その老人が気になって信久は声をかけたのだが、色よい返事が貰えるわけではなく、老人はしばらく来なくなってしまった。オフィスからいつも見ている等と云わなければ良かった。それも信久の父親とどうもオーバーラップするからなんだろう。信久の母が亡くなり、父は田舎で一人暮らしだ。電話もしないし、直接会うことも希なので、どうにも引っかかっているのだが、男親と息子という関係では何を話したらいいのかよく分からなくて切っ掛けがつかめないのだった。

感想

奥田英朗の本四冊目。作者のうまさは今回も際だってますな。文章そのものに癖はなく、本を読む習慣の無い人でも十分な短い内容でハートをゲットできる内容です。まぁ平易ではある物のちょっと薄っぺらな気もしますけどね。それでもしっかり持ち味を生かしているわけです。なお、今回は五編すべて男性が主役なんですが、男性視点だけじゃなくて女性視点を鋭く切り込ませるとか面白いことやってます。多分全体としてちょっとしたユーモア物としてまとめてるんでしょうが、個人的感覚ではそうであるとは思いませんでしたね。私の好きな系統は「怒り」と「復讐」と「突拍子もないギャグやユーモアの笑い」とかなんですが*1、その中で一番にくるのは「怒り」なんですよね。この本は全部が全部ではない物の、その「怒り」が発散されないまま留め置かれるので欲求不満気味な感じになります。

  • マドンナ

淡い恋心を抱いた中年男を描いているが、まぁ微妙。恋愛物にそこまで心動かされないからね。

  • ダンス

世のお父さん頑張ってますな。公私で板挟みってのは良くあることでしょうなぁ。まぁ、一種の賛歌でしょう。上手いものの、そこまででもなかったかな。ただ、義を持って動く人間の潔さみたいな物は感じました。

  • 総務は女房

改革を断行しようとしても、旧弊な癒着が世の中に横行してますよーっていう簡単な話ですが、結末には難あり。いや、まぁ自分と仲間達が頑張っているのに、サボって佳いおもいをしている人間が居たらそりゃあ怒って当然ですよ。でも、この景気が良くない時期にこんな事してられる所って少ないかと。大幅に合理化されても仕方ないだろうしなぁ。身から出た錆だし。お客さんでもやれることをやっておかないと腐敗は進行しちまうよ。なんかもう怒りのもって行き場がなくて・・・。

  • ボス

組織という物は下からすると上から押さえつけられ、上は上で苦悩を負っている。その中間に位置する管理職の大変具合を扱ってるわけですが、こうも板挟みが続くと鬱屈がたまりそうですな。しかも本来上は苦悩するはずなのに暖簾に腕押し状態でもうね、読み途中でノワールが読みたくなって読みたくなって・・・。すべてを壊したくなっちゃいましたよ。怒りによる破壊衝動が良い感じに引き出されてきます。「総務は女房」と反対に旧弊を守る方向な話なわけですが、どうにも怒りがこみ上げてきてしょうがない。こうも押し切られると不満がたまるのが普通でしょうな。女性の上司は増えてるだろうけど、こういう悲哀も沢山発生してるんだろうなぁ。付き合いやすい人なら佳いけどガチンコで正反対のスタンスに立たれて、単に上からの通達なんて形でやられるとねぇ・・・。経験があるだけにちょっとヒートアップしちゃいましたよ。故に結末部分の女性上司の可愛げを感じるとかで納得するわけもなく、カッカしてました。作者は読者の「怒り」をコントロールするのが上手いですな。

  • パティオ

「怒り」を沈めるために有るような話。ラストにこれを持ってきた選択は正しいね。まぁ、順番は発表順に過ぎないけど天の配剤って奴でしょうな。こいつのおかげで穏やかな気持ちで本を閉じることが出来ましたわ。郷愁を感じたりもしますしね。



この本ではっきりしてるのは、結婚するって事は人生の墓場だって事w。「サラリーマンは気楽なもんだときたもんだ!」といった植木等の言葉はもう死語だって事ですな、まぁこれは当然ですが。
なんかふと下町情緒が作品のそこここに見いだされたような気がしましたが、気のせいですかね。
軽い読み物としては申し分ないと思いますが、ストレス貯めたくない人は読まない方がいいと思う。
80点。


蛇足:この話はそれぞれ違う話だけど、作者の経験から来てるのか、それとも誰かのアイデアが切っ掛けか。全部全部創作のような気がしないなぁ。

参考リンク

マドンナ
マドンナ
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奥田 英朗
講談社 (2002/10)
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*1:一応他にもあるけど、比重が置かれるのは多分このあたり

Operaがついに完全無料化

なんとOperaが広告0になった。
http://www.jp.opera.com/free/
もっと早くやって欲しかったなぁ。Linuxとかもfirefoxとかに蹂躙とかされてたわけで。この間のライセンス無料配布もこれの布石だったのか。
IEとか使ってる人はマウ筋でも使ってない限りそのまんま使ってるんだろうけど、マウスジェスチャーあるだけで随分違うと思う。それにIEは穴だらけでそれを狙われるから、出来るだけIE以外のブラウザ使った方がいいと思うけどなぁ。セキュリティーとか考えずにノーガードPCを使ってる人とか大杉。