舞城王太郎 The Childish Darkness 暗闇の中で子供

ASIN:4061822063

あらすじ

奈津川ファミリーの三男坊奈津川三郎は一ヶ月前に起きた事件でもはや何もする気になれないでいた。小説家としてはミステリーを書いていた三郎だが、その源泉である探偵を失い文筆活動は彼の手から離れていたし、経営している私塾の現場は彼を必要としていなかったのである。故にだだっ広い奈津川家の実家に彼はぽつねんとしていた。
事件で意識不明の母は一ヶ月経っても意識が戻らず生と死の狭間をたゆたっているし、父と兄は病院、弟は彼女の所に入り浸っている。三郎を必要としている存在は皆無だったのだ。
意思をどこかに伝達する必要もなくただ在り生きている。社会的には死者と変わりない引きこもり生活をしていた三郎はひょんな事から一ヶ月前の事件が未だ継続していることを知る。
そのきっかけはこうだ。車を走らせている三郎はマネキンを地面に埋めてまわっている少女を発見したのだ。人ならぬ存在ではあるものの、きっちりビニールを被せ地中に埋める様子はコピーキャットそのものだった。一通り様子を探ってから帰宅した三郎を待っていたのは弟の四郎で、この行動的な弟はもう一人コピーキャットが居ることを兄に説明した。端的に言えば四郎は物証を持ち帰ったのである。実は事件収束をみたはずの日から町内では失踪者が数名出ていた。四郎が三郎に示唆したのは腐乱していやらしい悪臭を放つ誰かの足であった。おそらくは失踪者の持ち物であったろう。ということは失踪者は既に死亡しているはずだ。
四郎は三郎をせっついてきちんと事件を終わらせようと奔走するのだが・・・。

感想

舞城王太郎四作目。奈津川サーガの続編です。
なんとなく読書に倦怠を覚えている中本書を読んだのですが、ぐいぐいと引っ張っていくパワーがよい刺激材料になったように思います。
作者の特徴であるリズミカルに綴られるリリックのような言葉が、改行を廃した長文気味の掛け合いが、妙に心地良い。ふと気がつくとニヤニヤしているのに気がつく有様です。
さて、前作は四郎が主人公でしたが、本作はその兄の三郎が主役です。直情径行、頭脳明晰、唯我独尊な四郎と比べると三郎にはダウナーな雰囲気(駄目さ加減)が付きまといます。快刀乱麻で力押し、きっちりまるっと解決をして貰いたい向きの人は読んでてイライラするかもしれません。つまりは前作と同様の物を求めてもまずそれはありません。
それにしても本書は激しくメタな香りがするのだけれど私には決定的な仕掛けを判別できませんでした。気がつかない事はまず無いほどの堂々たる齟齬が存在するのです。それでどっかに叙述でもあるんじゃないかなぁと思いながら読んだわけですが、「嘘の中でしか語れない真実がある」というメッセージに全てが込められていたのかもしれません。であるならば分裂気味の筋道の通らない話が突如出てくるあたりが作中人物である三郎の創作なのではないかなぁ、と思うのですが段々とそれを読み解こうとする努力をすべきではないのかもしれないと思わせる展開になりました。
つまりはこうです。読み手側からすれば読んでいる物語には「嘘(フィクション)であるという必然」があります。そこに作中人物である三郎が同様の事を必要としているならば入れ子でもう一つフィクションを内蔵しているわけです。でも三郎視点からはそれが分かっても、その更に外側に位置する読み手にとってはどちらもすでに案件を満たしているわけで「効果的なフィクション」であることには変わりがないのです。つまりは「嘘の中でしか語れない真実」は既に読み手に開示されているわけで、メタとメタでない部分を分けて語る必要は無いわけです。ここでメタにこだわる場合はミステリーであるということ、謎解きを優先させることになるということだと思いますが、端的に言ってしまえばこれはミステリーとして犯罪・犯人・探偵役と、事象と人物を割り振って推理することはほとんど考慮されていません。小道具レベルとして用いられているに過ぎないのです。
それに先ほど書きましたがメタな内容になっている様子というのと、作中視点人物の三郎は精神的に相当参っているため文章的にかなり分裂気味で筋道を通そうとしても意味を成さないのです。加えて過程に意味はないと来ています。こうなったら三郎の選択を見守るよりほかないのです。もっと第三者的にこの話の具体像を知ろうとするならば、今後作者が手がけるであろう奈津川サーガの最新作を読むしか手はないのかもしれません。恐らく今度は失踪したはずの二郎か一郎が主人公になるんでしょうが・・・視点人物を四郎に据えた本を読みたい人が多そうだなぁ。個人的には次巻に謎を引き継ぐというのは好きな方なので首を長くして待ちたいところです。
舞城が合わない人でも奈津川サーガは普通に入れるんじゃないかなぁ。
80点
でもやっぱり『土か煙か食い物』の明快さを求める向きにはこの本は期待はずれかも。このダウナーなドライブ感は個人的に好きだけど・・・万人に受けはしないだろうね。

参考リンク

暗闇の中で子供―The Childish Darkness
舞城 王太郎
講談社 (2001/09)
売り上げランキング: 36,666