浅田次郎 プリズンホテル冬

あらすじ

木戸孝之介は山の上ホテルで自主的なカンズメを行っていた。極道小説家としての代名詞、代表作の「仁義の黄昏」をうっちゃって置いて「哀愁のカルボナーラ」という甘々の恋愛小説を書いているのだ。自分に酔っている時にフロントから内線がなった。大日本雄弁社の荻原が来たという。件の出版社は現在書いている「哀愁のカルボナーラ」の出版予定の会社だ。ハギワラなどという名前には覚えが無かったが悪態をつきながらフロントに向かうと、「仁義の黄昏」を出版している丹青出版文芸部の萩原みどりという女編集者が待っていた。狼狽していると、どうしても今月中に「仁義の黄昏」の続編の原稿がほしいのだという。現在掛かりきりになっている「哀愁のカルボナーラ」にしか眼中に無いのであるが、泣きながら頼むので仕方なく承諾の声を上げた。女の涙には弱いのだ。元来嘘が嫌いな性質ではあるが、背に腹は変えられない。いつも10時につく事になっている田村清子が来たのをこれ幸いと男女の営みが1時間ほど掛かるから待つようにと萩原に言い、ホテルマンに合図して巧く逃げる算段を組んだ。山の上ホテルを嗅ぎ付けられるとしたら、最後に行く場所は一つしかない。陸の孤島、一般人が立ち入りしない場所、プリズンホテルだ。

奥湯元あじさいホテル、通称プリズンホテルにも冬は来る。山深いから当然客足も遠のく。殆ど開店休業状態だ。そんな閑散としたホテルには一人の医師が逗留していた。名を平岡正史という。彼はガン末期患者などを扱う終末医療専門の医者だった。秋口に関東桜会の相良総長の最後を看取り、そして彼は自分の行う終末医療の何たるかを知ってしまい、安楽死という手段を患者に使ってしまう。彼は悩んでいた。相良直吉は終末医療での苦痛を取り除く麻酔投与を悉く拒み、苦痛に三ヶ月も耐えぬいた挙句に死んでいった。直吉は自分が麻薬に手を出したら子分に示しがつかない、自分を破門しなきゃらなないと言っていたが、とてつもなく強い意思で苦痛を表に出さなかった。結局自分がしていた医療行為というのは、直吉という老人に対して徹底的に苛め抜く苦痛を与えつづける行為でしかなかったという事に直吉が死ぬまで気付かなかった。そんな自分に嫌気が差していた。慈悲という名の死を与えるのもまた医者の医療行為の一部なのではないかと平岡は考えて、安楽死を実行してしまった。発作的ではなく、あくまで自分の意志でだ。自分は苦しまなければならない、直吉の分まで。安楽死の一件はすぐに露見して、大きな事件になった。世間からの目が厳しくなった頃、相良の子分をしていたここ奥湯元あじさいホテルのオーナー木戸仲蔵に誘われたのだった。

今年の冬のプリズンホテルには更にナース・登山家・自殺志願者の少年が来る。
はてさてどうなる事やら。

感想

シリーズの中では一番重い話ですね。冬という人を殺す季節の話ですから仕方ないんでしょうな。
今までのおちゃらけた感じと比べると社会派エンタメって感じに変貌してますが、春への布石ですわ。
あと、シリーズでは一番薄いのかもしれん。夏読んでないからアレだけど、ハードカバーで241ページしかなかった。単体で読んでも十分楽しめる本ではあるものの、どちらかといったら単体ではあまり楽しまない方が善い内容ですな。
仲蔵は被害妄想入りまくりで乱れまくってるし、厨房の連中は俄か登山者へ変貌している。訪れるのは極道に恐れられる5000人殺したという看護婦、死にたがりのガキ、山が寝床とかほざいてるマウンテンジャンキー・・・こう書くとなんかいつも通りな気もするけどw
テーマが冬という事で死って事になってるので沈うつな場面が出てきますが、ちょっと全体的に分量からもパワーダウンは否めませんな。とうか、秋でパワーダウンとか言ってた人は冬読んで放り投げそうなぐらい様相が違います。その場の雰囲気と義理と人情、漢気で何とかなるような内容ではないですし。
それに、主人公が落ち着くという内容は唐突だし、くっつきそうな二人も結局は好きあい同志だけれども仕事を恋人にって終わり方をする。全体的に消化不良な感じは否めない。軽い分量なのでさらっとは読めるものの読後感は微妙かなぁ。春へのインターミッションとしてエンジンをアイドリングするように読み、一気に春へなだれ込んでくださいな。こうやって読めば多分問題ないかと。
単体としては65点。


今日の引用

「いいか小僧。死んでもいいというのと、死にたいというのは大ちがいだ。最高の男と最低の男のちがいだぞ。一緒くたにするな」

浅田次郎 「プリズンホテル冬」より

蛇足:

かなくぎ-りゅう ―りう 0 【金▼釘流】

金釘を曲げたようなへたな字を書くことを、流派にみたててからかう言葉。


三省堂提供「大辞林 第二版」より

参考リンク

プリズンホテル〈3〉冬
浅田 次郎
集英社 (2001/09)isbn:4087473589
売り上げランキング: 17,286
このページは在庫状況に応じて更新されますので、購入をお考えの方は定期的にご覧ください。

プリズンホテル冬
プリズンホテル冬
posted with amazlet at 05.06.18
浅田 次郎
徳間書店 (1995/09)isbn:4198603499
売り上げランキング: 232,343
このページは在庫状況に応じて更新されますので、購入をお考えの方は定期的にご覧ください。