宮部みゆき 理由

あらすじ

石田直澄が片倉ハウスという簡易宿泊所に居ると、所轄の石川巡査に告げたのは片倉ハウスの長女片倉信子だった。
石田直澄は荒川区の一家四人殺人事件の重要参考人とされる人物だ。石川巡査を怪しみながら片倉ハウスへと向かう。

事件は六月二日に起こった。ヴァンダール千住北ニューシティという大規模高層マンションがその舞台だ。まだ梅雨入りしていないというのにまるで台風の様な荒れた天気の夜だった。二〇二五号室の階下の住人が落ちていく人影をみたのだ。
警察救急と来たが、警察はどうやら別件できたようだった。元の事案とは別の飛び降り事件で本部との無線連絡を取る暇も無く死体の確保をしている所にもう一台警察車両が現れ、てきぱきと動いていく。
まずは飛び降りた場所の特定に走り、その部屋を見つけ開けると死体が三つも転がっていた。愕然とする管理人を尻目にたちまち事件は大きく膨らんでゆく。

感想

社会派ミステリーの方向でしょうか。なんか読み始めに滅茶苦茶違和感感じましたな。語りが変って。ハードカバーの奴を読んでたんだけど、571ページも有るくせに173ページまで変な語りはインタビュー方式だと明かさないんですな。まぁ、だから何?って言うのはあるんですが、序章部分では普通に三人称視点で描かれているのに、インタビューでの進行に切り替えたのは何でだろうという違和感が拭えない感じがこびり付いてました。また、四分の一あたりで唐突に犯人が自供するなど、純粋なミステリーというより、犯罪に関わった人物を順順にインタビューして回る実録犯罪物の系統で架空の話を作りこんでいる事に興味を途中で持てなくなりました。正直宮部みゆきは事件を作りこむのに慣れては居るけれども、おばさん視点なんですよ。なので、「今の若者は駄目!」とか「世の中のオジサンなんてこんなもんよ」とか「世の女性はもっと自立して男性社会に立ち向かわないと」とか微妙に時代的にずれているというか勘違いに近い価値観で書きこんでしまっているのでゲンナリ。なんか嫌な意味で昭和の香りが漂いまくってます。
会話の部分でももう二十歳以下のキャラクターを書くのは止めた方がいいと思いますよ、無理ですし。どこの田舎に居るんですか、こんな喋り方をする十代。気持ち悪い事夥しい。「ブレイブ・ストーリー」で感じた違和感もおばさん文学っぽさが前提にあるのかな。10歳満たない子供が喋る内容じゃないしね。更に理想化されてるし。
これが直木賞受賞したんだっけか。ちょっと信じがたい。疾走する恐怖や興奮だとか興味深さとか感情の揺らぎとは無縁もいいところなのに。一言で言うと冗長。題名も「理由」だけど、全くちぐはぐなのは何で?別に連想させる事柄はないと思うんだけど。しいて言うなら「キャラクターの行動にすべて理由付けしましたよ」なんだろうけど、全然しっくりこない。「家族 その群像」とでもつけた方がよっぽどまし。まさに群像劇と言っていいぐらいにいくつ物家族がでてくるし、一つ一つ肉付けされてる。住宅ローン問題と付帯する占有屋問題を下敷きに物語ったのはいいが、無駄に手を広げすぎて、もっさりもっさり。生活の愚痴を読むためにわざわざ本を開いたりする物好きは居ないでしょうよ、Mじゃあるまいし。こんな本を直木賞受賞させるなんてキチガイ沙汰も甚だしいよ。読後感は最悪。やっと終わったかって感じだった。真綿で首をじりじり締め上げていくような終わりの無さ。筋だけで追っていくならば、半分以下に圧縮できる。すべて詳細に描き出してリアリティを追究しようとしたのなら情報の取捨選択という基本に立ち返った方がいい。読者に想像をさせる余地を残すっていう選択肢は頭にないんだろうなぁ。厚い本書けばそれで善い訳じゃ無いですよ。これじゃあ人物描写という名の容量の水増しでしかない。「ああ、もう終わりのページが間近だ・・・」と残念無念に思える内容とは程遠い。50点。
根本的に下手じゃないだけに不満が残る内容ですな。もうこの際時代物と本格だけ書いてればいいんでないの?奇を衒っても予定調和にしか落ち着かないような気がするし。

今日の引用

石田直澄曰く「そうそう、そうですよ。だけど、弱いって事は強いってことなんだよねぇ」

宮部みゆき「理由」より

蛇足:前回手にとってからえらい時間が空きました。そう、一度この本読もうと思ったんですよ。でも10ページほど読み進んで止めたわけです。もうニ年も前になるのかな。そのときの感触に正直になってればよかったような気がする・・・。「模倣犯」の後だったから読まなくて正解。「模倣犯」は面白かったんだけどねぇ。でもやっぱり「模倣犯」も作り物めいてた。それでもサスペンス要素が高かったからまだよかった。おばさん文学は読んでて違和感がするからあんまり読む気をそそらないなぁ。書き手が女性でもその辺りの臭気を全く感じさせない作者もいるから一遍に断じるのは愚なんだけどね。

じんろく 0 4 【甚六】

(1)長男。跡取り息子。おっとりして気がよいところがあることからからかう気持ちをこめていう。
「惣領の―」
(2)お人好し。のろまな愚か者。


三省堂提供「大辞林 第二版」より

蛇足の蛇足:キャラクターに筒井康隆をイメージをしたキャラクターがいます。随分ひん曲がってますがw

参考リンク

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