伊坂幸太郎 重力ピエロ

あらすじ

レイプで孕まされた母は弟を産んだ。
レイプから20年近く経ったある日、主人公の兄は弟からグラフィティ(落書き)と放火に関連性があるというという話をされる。

感想

伊坂幸太郎は本編とは関係の無いところに力点を置き過ぎな気がします。前回の読んだ「アヒルと鴨〜」の方がよく出来ていたと思うんだけど、こちらは明確なトリックも何も無くて不出来なレベルの作品のような気がします。ただ、凡庸というと語弊がありますね。画一的なミステリーとは方向性が明確に違うのですよ。事件を描いたのではなくて人間を描く方に力点をおいた結果こうなったとでも言った感じでしょうかね。描かれる人間は主に家族です。父・主人公・弟の三人に他一名。話は主人公と弟のレトリック重視の会話で進みます。多分ここで好みが分かれるかと。
事件をベースに話は進まず、弟との昔話で大半が消費されるので、事件が起こっているような切迫感が無いし、事件はあくまで話の補佐的要素に押さえ込まれている感が抑えきれないのです。説明的なところでは全く警察は出てこないし、探偵役として父親登場。探偵が職業の人物は出てくるものの、物語を紐解くと云った役回りではないのです。なので、兄弟・家族愛を描いた小説ではあるものの、それに承服できなければ読まない方がいいかなぁと思います。あまりにもレトリックに頼りすぎていて、愛以外には魅力が無いのです。ガンジーの人となりとか、ネアンデルタール人クロマニヨン人とか、ポンペイの落書きとかトリビアを引用しまくってるあたりを評価するというのは、引用元の知識を垂れ流してるだけなので評価の対象としては違う気がします。うまく印象をもっていくのに使用されてはいるものの、別に学術書ではないわけですよ。故にダラダラと読み進む印象が強く、それを払拭するのは最後まで私には出来ない内容でした。ノミネートを複数されても大賞取れなかったのはなんか納得の出来です。
青春という空虚な青臭さに取り付かれている人にはいいかもしれないけど、無駄にリアリティを求めたり、悪趣味を望んでる側からすれば、清涼剤にすらならない本作は毒にも薬にもならない感じですかねぇ。味はあるものの、人によりけりでしょう。「アヒルと鴨〜」で笑いながら人を殺せる毒の印象をもっていただけに、拍子抜けですよ。この分だと伊坂とは合いそうも有りませんな。40点。

蛇足:コアラがオーストラリアの火事で死亡する云々と書かれてはいるものの、コアラは害獣ですから。可愛くても害獣なので処分されてます。それがアレだからって理由で最近は避妊手術を受けさせてるわけですが。食肉としたって毒含んでるから無理だしなぁ。海外に輸出してもいいんじゃねーのとは思うけど。奴らユーカリしかくわねぇしなぁ。

蛇足の蛇足:青春物は嫌いじゃないんですよ。ただ、方向性としては古式床しい物が好きなのでね。奇を衒ったものよりも、明治大正昭和の香り(かほり)がするものがいいわけですよ。いうなればゴシック浪漫って奴ですか。なんか様式美に惹かれたりするみたいですな。

参考リンク

重力ピエロ
重力ピエロ
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伊坂 幸太郎
新潮社 (2003/04)ISBN:4104596019
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